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大阪高等裁判所 昭和51年(ネ)1980号 判決 1979年8月03日

主文

一  原判決を取消す。

二  被控訴人は控訴人に対し金三〇〇万円およびこれに対する昭和四八年一一月二三日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。

四  この判決は、控訴人において金六〇万円の担保を供するときは主文第二、三項につき仮に執行することができる。

事実

控訴人は、主文第一ないし第三項同旨の判決を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠関係は、次のとおり補正するほか、原判決事実摘示(後記一1(1)の援用部分を含む)のとおりであるから、これを引用する。(但し、原判決添付約束手形目録の裏書関係欄に各「藤川利」とあるのをそれぞれ「藤川〓利」と訂正する。)

一  主張

1  被控訴人

(1)  原判決事実摘示の原審相被告山田染工株式会社の抗弁を援用する。但し、原判決三枚目裏末行に「二通」とあるのを「四通」と改め、同四枚目表二行目の「(3)」から同三行目の「約束手形二通」までを削除し、同一〇行目末尾に続け「そして、右支払期日昭和四八年一月三一日の約束手形二通はいずれも支払期日に決済しその手形金二〇〇万円も前示2末尾に記載したのと同様設計料の前払金に充当された。」と加える。

(2)  控訴人の後記2(2)の主張事実は否認する。

2  控訴人

(1)  被控訴人の前記1(1)の主張事実は否認する。

(2)  被控訴人は、本件各手形の支払期日の前々日ごろ控訴人に対しいずれもこれを呈示しないでくれと支払猶予を懇請したのであるから、適法な支払呈示期間内にこれが呈示がないとの主張は許されない。

二  証拠(省略)

理由

一  控訴人の請求原因事実はすべて当事者間に争いがない。

二  よつて、被控訴人の抗弁を検討するに、右抗弁は、要するに、本件手形三通はいずれも融通手形として被控訴人が裏書をして控訴人に交付したものであり、しかも、その後右各手形の書換手形をその後裏書交付しているのであつて、本件各手形は被控訴人に返還すべき義務のあるものであると主張する趣旨であると解される。しかし、右主張に沿う甲第四号証の九の記載、当審証人嶋田恒男、同平岡竹子の各証言、原審および当審の被控訴人本人尋問の結果は、成立に争いない甲第四号証の七、原審および当審の控訴人本人尋問の結果に照らしにわかに措信し難く、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。反つて、前示甲第四号証の七、原本の存在およびその成立に争いない乙第三号証の一ないし五、成立に争いない乙第一、二号証、振出部分、付箋部分および第一裏書部分は成立に争いがなく、その余の部分は原審の控訴人本人尋問の結果により真正に成立したと認める甲第一ないし第三号証、当審証人嶋田恒男の証言(前記措信しない部分を除く)、原審および当審の控訴人、被控訴人(前記措信しない部分を除く)各本人尋問の結果を合わせ考えると、被控訴人および同人とその母訴外山田みかが各代表取締役をしている訴外山田染工株式会社は、昭和四七年始ごろ設計業を営む控訴人に対し、右会社賃借地上に鉄骨造のスーパーストアおよび工場建物の建築設計を依頼したが、同年春ごろ右計画を変更し同所に原判決添付物件目録記載の店舗兼共同住宅の設計ならびに確認申請手続を依頼したこと、控訴人は自己が代表取締役をしている訴外株式会社中央建築研究室に依頼して右各設計を行い、右店舗兼共同住宅建築の確認申請をして同年七月一三日付京都市建築主事の確認を受けたこと、本件各約束手形はいずれも右各設計料の内金支払のため訴外山田染工株式会社が振出し、被控訴人が各裏書のうえ、原判決添付約束手形目録(二)(三)記載の手形は被控訴人に交付され、同(一)記載の手形は訴外株式会社中央建築研究室に交付され同会社がさらに控訴人に裏書交付したものであること、がそれぞれ認められる。

ところで、本件各手形はいずれも拒絶証書作成期間内に呈示されていないことは控訴人の自認するところであるが、前記控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人は、本件各手形の振出人である訴外山田染工株式会社の代表者および右各手形の裏書人として、右各手形金支払の資金繰りがつかないことを理由に控訴人に対し、原判決添付約束手形目録(一)記載の手形の満期の直前である昭和四七年八月二九日ごろ及び同目録(二)(三)記載の各手形の満期の直前である同年一二月一三日ごろ、いずれもこれを呈示しないでその支払を各満期から四ケ月猶予して欲しい旨を懇請したので、控訴人はこれを承諾したものであること、また、被控訴人は本件各手形の裏書人として、控訴人との間で本件各手形が適法な支払呈示期間内に呈示されなくとも右猶予期間経過後はその償還に応ずる旨を特約していたこと、がそれぞれ認められるのであつて、この認定に反する原審および当審の被控訴人本人尋問の結果は措信できず、他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。

そして、以上のように約束手形の呈示義務免除の特約がなされた場合には、右特約は当事者間においては有効であり、控訴人は本件各手形を呈示しなくとも呈示したと同一の効果をうけ、被控訴人に対し償還請求をなしうると解するので、本件各手形が適法な呈示期間内に呈示されなかつたので本件各手形金に関する控訴人の遡求権は喪失したとの被控訴人の主張は採用できない。また、被控訴人は、本件各手形に関し遡求の通知がなされていないから控訴人の遡求権が喪失したと主張するけれども、遡求の通知は償還義務者に対する遡求権を行使するための条件ではなく、これを怠つても遡求権を行使する妨げとなるものではないから、被控訴人の右主張も採用できない。

そこで、前記(一)記載の手形の遡求義務は時効により消滅したとの被控訴人の主張につき検討するのに、約束手形の裏書人と所持人との間で支払猶予の特約がなされた場合は、右合意の当事者間では右猶予の期間中は消滅時効は進行しないものと解されるところ、前示認定のように、右手形につき被控訴人と控訴人との間で満期から四ケ月間、すなわち昭和四七年一二月末日まで支払猶予の特約がなされていたのであるから、右猶予の期間中は消滅時効は進行せず、右期間の翌日から時効期間は進行を始めるものというべく、控訴人が右支払猶予の期間経過後一年以内である昭和四八年一〇月三一日に本訴を提起していることは一件記録によりこれを認めることができるので、いまだ被控訴人の遡求義務は時効により消滅していないことは明らかである。よつて、被控訴人の右主張も採用できない。

二  以上のとおりであるから、被控訴人に対し本件手形金合計金三〇〇万円およびこれに対する本件訴状送達後の昭和四八年一一月二三日から支払済まで商法所定年六分の割合による利息金の支払を求める本訴請求は正当である。

よつて、右請求を棄却した原判決を取消し、右請求を認容すべく、民訴法三八六条、九六条、八九条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

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